東京高等裁判所 昭和31年(う)2145号 判決
被告人 秋山海蔵
〔抄 録〕
論旨第一点について。
所論は「被告人の所為は業務上横領罪に該当するものであつて、窃盗罪には当らないから、簡易裁判所で本件を審判したのは不法に管轄を認めたものである。」と主張する。そこで記録を調査すると、被告人は本件犯行当時原判示東宝撮影所に撮影助手として勤務していたもので、撮影の都度保管者から撮影用のフイルムを受領し、撮影を終つて余つた分はこれを返納することになつていたことならびに被告人が不法に領得した各フイルムのうちには、その余つたもので返納しなかつたものも入つていたことが認められないではないが、右のように撮影のために被告人が使用していたフイルムについても、被告人は単に撮影助手として、撮影技師その他の補助者として、その監督の下に一時的、補助的に管理しているに過ぎず、被告人自身が独立して完全な占有を取得していたとは認められないばかりでなく、原判決認定にかかる犯行の大部分は、被告人がいかなる程度においても適法に占有を有していなかつた物品を取出して不法に領得したものであることが明白であるから、被告人の所為が窃盗罪を構成することは論をまたないところである。従つて本件について簡易裁判所が管轄権を有することは裁判所法第三三条の規定に照らして疑を容れる余地がないから、渋谷簡易裁判所が本件を審理判決したのは正当であつて、毫も所論のような違法の点は存しない。所論は独自の見解に立脚して原判決を非難するものであるから採用の限りではない。本論旨は理由がない。
(花輪 山本 下関)